誤った採用調査は、依頼企業にも責任が及びます!詳しく解説
企業が採用調査を調査会社に依頼する場合、もし、その調査会社が職業安定法などに反して情報収集を行なえば、依頼元の企業にも責任が及ぶ可能性があります。
また、本人に無断で応募者の情報を調査会社に提供する行為も、個人情報保護法で禁止されています。
調査会社についても同様、応募者の勤務先に調査の電話をかける際などは、応募者に知らせておかなければいけません。
応募者の転職活動が、現職会社にバレることでトラブルが起きる可能性があります。
トラブルが起きれば、応募者は転職しづらくなって内定を辞退するというケースにもなりかねません。
採用調査の法的視点
厚生労働省の指針では、身元調査などの採用調査は推奨されていません。
このため、採用調査を行うことはリスクやデメリットがあります。
まずは、採用調査の違法性と自社調査によるリスクについて解説します。
採用調査を行うための法的根拠について
そもそも、採用企業には「採用の自由」が認められています。
どのような人を雇うかは企業の自由であり、そこに縛りはありません。
具体的な内容として、以下の自由が存在します。
- 雇入人数決定の自由
- 募集方法の自由
- 選択の自由
- 契約締結の自由
どのような者を、どのような条件で雇うかは、企業が持つ権利になります。
また、「募集はしたけれども採用をやめる」といった行動も、企業側の自由になります。
雇用とは、経済活動の一環としての「契約」です。
契約する上で、必要な情報を収集して採用を検討する行為は「経済活動の自由」であり、法的に認められています。
厚生労働省による指針
一方、厚生労働省では公正な採用選考のためには、以下の点を考慮することを事業者に訴えかけています。
- 身元調査の実施
- 本籍、出身地、家族、住宅情報、生活環境、家庭環境
- 宗教、支持政党、人生観、生活信条、尊敬する人物、思想、労働組合、学生運動、購買新聞、雑誌、愛読書
このことを踏まえ、調査に際し大切なことは「目的」と「手段」になります。
厚生労働省は、「応募者の基本的人権の尊重」と「適正・能力による採用選考」を基本とすることを求めています。
「採用選考時に配慮すべき事項」のなかで懸念されているのは、身元調査による人権侵害です。
個人の適正・能力と関係のない情報は、就職差別につながる可能性があります。
また、違法性のある調査手段についても人権侵害が懸念されます。
採用調査が違法にならない条件
応募者の身辺調査は、本人に通知をした上で同意を得ていれば違法にはなりません。
また、身辺調査の利用目的を伝え、目的以外に使用しないことや調査結果の事実を伝えることを条件とした場合も違法にはなりません。
しかし、個人情報保護法の中でも、特に慎重に扱うべき情報は、人種や信条、社会的身分、病歴や犯罪、犯罪の被害者となった事実のほか、身体や知的または精神障害があること、健康診断やその結果など医療に関する情報などの個人情報です。
これらは「要配慮個人情報」とされ、「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪 の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益 が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」を指します。
「要配慮個人情報」について
政令で定めるべき事項については、他の法令の規定、我が国における社会通念等を参考に、差別や偏見を生じるおそれの有無等を勘案し、その範囲を定めていくこととしています。
1.「病歴」に準ずるもの
- (i)診療情報、調剤情報
- (ii)健康診断の結果、保健指導の内容
- (iii)障害(身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の 障害を含む。)
- (iv)ゲノム情報
ゲノム情報とは、「DNAの塩基配列に解釈を加え意味を有するもの」、遺伝情報とは「ゲノ ム情報の中で子孫へ受け継がれるもの」と定義されています。
2.「犯罪の経歴」に準ずるもの
- (i)被疑者又は被告人として刑事手続を受けた事実
- (ii)非行少年として少年保護事件の手続を受けた事実
採用調査で違法なケース
採用調査は、探偵や調査機関などの調査会社が依頼により実施することが基本です。
もし、調査会社が「要配慮個人情報」である採用応募者のセンシティブな情報を意図せず入手してしまうケー
スがあります。
ここからは、採用調査が違法となるケースを見ていきます。
採用応募者に無断で実施する
バックグラウンドチェックなどの採用調査は、採用応募者からネガティヴな印象を持たれることもあります。
そのため、採用応募者から許可を得ることができないこともあります。
とくに、採用応募者が何らかの問題を持つ場合は、拒否をされる可能性も高くなります。
しかし、本人から許可を得ずに調査を行う行為は、個人情報保護法に抵触する恐れがあります。
(取得に際しての利用目的の通知等)
第二十一条 個人情報取扱事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない。
2 個人情報取扱事業者は、前項の規定にかかわらず、本人との間で契約を締結することに伴って契約書その他の書面(電磁的記録を含む。)に記載された当該本人の個人情報を取得する場合その他本人から直接書面に記載された当該本人の個人情報を取得する場合は、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。ただし、人の生命、身体又は財産の保護のために緊急に必要がある場合は、この限りでない。
採用選考と無関係な情報の調査
企業が採用のため調査を行い、その調査結果を採用の可否判断として利用することは、違法ではありません。
しかし、職業安定法では、本人の同意がある場合を除き、業務の目的の達成に必要な範囲内で、求職者等の個人情報を収集、保管、使用しなければならないとしています。
(求職者等の個人情報の取扱い)
第五条の四 公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
また、個人情報保護法では、地方公共団体については条例により規律することとされています。
- 地方公共団体は、この法律の趣旨に則り、その地方公共団体の区域の特性に応じて、個人情報の適正な取扱いを確保するために必要な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する。 (同法第5条)
- 地方公共団体は、その保有する個人情報の性質、当該個人情報を保有する目的等を勘案し、 その保有する個人情報の適正な取扱いが確保されるよう必要な措置を講ずることに努めなければならない。(同法第11条第1項)
差別につながる調査
代表的なものとして、「被差別部落に関する調査」が挙げられます。
調査会社へ依頼して、求職者の出身地、本籍などから被差別部落の出身者ではないか調べる行為、また、戸籍などを違法に取得する事例もあります。
これらの不正調査を直接的に行うのは、調査会社などの外部者ですが、それを依頼した者にも責任が及びます。また、法的な責任を免れたとしても、社会的批判を受けることもあります。
まとめ
応募者の人格権やプライバシー保護の観点から、応募者に対する調査について一定の限界が存在します。
応募者に対する調査は、社会通念上で妥当な方法で行われることが必要であり、応募者の人格権やプライバシー等の侵害になるような調査は避けなければいけません。
応募者に対する調査が行き過ぎた場合、その会社に対して不法行為責任が成立することもあります。
投稿者プロフィール
- 10年以上にわたる探偵経験を持ち、調査分野のエキスパートとして認められている。これまでに手掛けた調査案件は年間200件以上にのぼり、その確かな調査力と洞察力で数多くの難解なケースを解決してきた実績を持つ。特に浮気調査や素行調査の分野で高い成功率を誇り、信頼と実績に基づいた調査を提供することを信条とし、クライアントからの高い満足度を誇る。
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