横領の損害賠償、払えないと言われたら泣き寝入りしかない?取るべき対処を解説!

横領は被害額が賠償されれば刑事告訴まで至らないため、よほど高額か悪質でなければ刑事事件になりにくい犯罪です。肝心の損害賠償が払えない事態に陥ったら、どうすればいいのか解説します。
横領の責任

横領は犯罪です。当然、加害者には負うべき責任があります。罰則や時効などは種類によって変わりますので、基本をおさえておきましょう。
刑事責任と時効
まずは刑事責任から解説します。横領は刑法によって下記の3種類に分かれており、それぞれ罰則、時効ともに異なります。
- 横領(刑法第252条)5年以下の懲役で、時効(刑事訴訟法第250条2の5)は5年。
- 業務上横領(同法第253条)10年以下の懲役で、時効(同法第250条2の4)は7年。
- 遺失物等横領(同法第254条)1年以下の懲役、または10万円以下の罰金、もしくは科料(1000円以上1万円未満)で、時効(同法第250条2の6)は3年。
横領は未遂罪が適用されるため、未遂であっても罰せられます。ただし、配偶者や直系の親族、同居親族間での横領は刑法第257条「親族等の間の犯罪に関する特例」に該当し、刑は免除されるのが一般的です。その判断は何親等かなど親族としての近さや成年後見人になっていたかによって変わります。
民事責任と時効
横領は相手に対して損害を与えています。民法第709条に「不法行為による損害賠償」が定められているため、被害者は損害賠償を請求できます。例え、親族間の特例が適用されていたとしても、損害賠償は行えるので民事責任を問うことが可能です。
民事には権利自体の時効(消滅時効)があり、第724条「不法行為による損害賠償請求権の消滅時効」にて、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年と定められています。
横領の損害賠償で自己破産は可能?

横領が長期間に及んでいたなどで損害賠償が高額になると、支払いに応じない事態に発展しがちです。そもそも払いたくないという反省の色がまったく見えない場合もあれば、反省はしているものの、横領したお金をすべて使ってしまい実際に払うだけの資金がないこともあります。
義務はあるけれど払えない構図が借金に似ているため、自己破産で免責されるのではないかと不安になります。実際、自己破産は可能なのでしょうか?
免責許可の内容と効力
答えは、横領による損害賠償で自己破産はできません。
自己破産を「借金で困ったときの便利な制度」と軽く考える人もいるかもしれませんが、借金を支払わなくていい免責許可が決定されるには、裁判官が妥当だと判断する事由が不可欠です。
免責許可がおりない事由として、破産法第252条「免責許可の決定の要件等」にて浪費、賭博を目的とした財産の減少、債務など10項目と、そもそも免責できない請求権として、同法第253条「免責許可の決定の効力等」で、税金の請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権、夫婦間の協力及び扶助の義務に関わる請求権など12項目が定められています。つまりは、単なる自分の楽しみのための借金や不法行為、国、夫婦間の義務を果たさなかったことによる支払いは免除の対象にならないといえます。
横領の損害賠償を示談で分割払い

横領された金額が数万~数十万円程ならば一括返済も可能ですが、数百万、1000万円を超えるような大金だと、同じようにはいきません。横領した人は元々お金に困っていたり、すでに使い切ってしまっていることがほとんどです。
そこで刑事告訴に踏み切ることや懲戒解雇という方法もありますが、証拠が十分に揃っていなければならないうえ、自分が認識している被害額より減少する場合もあります。そうした事態を避けるためには、支払い方法や回数、金額に関して交渉し、示談を成立させます。
強制執行できる執行証書を作成
示談をまとめるためには、詳細な条件を書面にし双方の署名捺印が必要です。念書や覚書、和解書などがありますが、確実に支払いをさせるには、公正証書に「約束を違えた場合、直ちに強制執行に服する」旨を記載した執行証書で作成します。
民法第415条の「債務不履行による損害賠償」に債務の履行がされないときは請求できると定められており、念書も必須事項を明記していれば法的効力があります。執行証書と異なるのは「裁判所に提起し判決を得ないと、強制執行できない」点です。法務省の公正証書概説において、執行証書には債権者に強制執行できる効力である執行力を有していると記されています。これにより、裁判所を経なくても給料差し押さえなどの執行が可能です。
身元保証人に横領の損害賠償を請求

本人による支払いがどうしても難しい場合、身元保証人に損害賠償を求めるという方法もあります。身元保証書を交わしていない場合は、民法第474条の「第三者の弁済」により、本人と家族が同意すれば代わりに払ってもらうことも可能です。
3つの注意ポイント
身元保証人に支払いを求めるには以下の3点に注意しましょう。
まず、身元保証の有効期限内であることです。
身元保証法第1条及び2条において身元保証書の有効期限が定められています。特に期間が明記されていない場合は3年、期間が定められていても最大5年となっています。自動更新はできなく、更新する際も最大5年です。
次に通知義務です。
保証人に責任が生じる可能性がある際には、同法第3条にて通知の義務が定められており、保証人はそれによって保証契約の解除も可能です。この通知を怠ると即、無効になるわけではありませんが、保証人の責任が軽減されやすくなります。
そして、損害額の上限を明記していることです。
2020年4月に改正された民法第465条の2「個人根保証契約の保証人の責任等」により、改正以降の身元保証書は上限額が明記されていないと、無効となります。
まとめ

横領の損害賠償の支払いが困難な際の対処として、分割払いや身元保証人への請求が考えられます。また、刑事告訴や懲戒解雇などの方法もありますが、証拠が揃っていないと不起訴になったり、不当解雇で訴えられかねません。
示談を成立させるだけでなく、いざというときのために財産調査を行ったり、複数の証拠を得ることは重要です。そのためには探偵や興信所など調査機関に相談するのもいいでしょう。