背任行為に年数は関係ある?背任の罪状と時効について

背任罪と聞いても、どういう行為をさすのか具体的にはよくわからないという人も多いのではないでしょうか。過去の不正行為についても告発できるのか? 自分も知らない間に不正行為をしていた…なんてことがないよう解説します。
何をしたら背任になるのか

背任罪は企業犯罪のひとつで、字の通り「任務に背く行為」によって会社に損害を与えたときに問われます。しかし、任務に背く行為といっても抽象的で、他人の物を盗む=窃盗罪のように、具体的なイメージがわきにくい犯罪でもあります。
刑法第247条背任の構成要件は以下の4つです。
- 他人のための事務を処理している者
- 自分、もしくは第三者の利益を図り、また本人(会社)に損害を与える目的
- 任務に背く行為
- 本人(会社)に財産上の損害を与える
ポイントとしては、事務処理というのは財産に関わる業務であること、あくまで自己、第三者の経済的、地位などの社会的な利益、会社への損害が目的で、会社に財産上の損害を与えたということです。
仮に任務に背く行為を行ったとしても、財産上の損害が発生しなければ背任罪は成立しない可能性が高いでしょう。ちなみに、この「財産上の損害」には、実際に財産が減る「積極損害」だけでなく、本来ならば得られる利益が失われた「消極損害」も含まれています。
背任罪の刑罰は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金と定められています。
特別背任罪について
特別背任罪は背任より重い不正行為で会社法第960条で定められており、目的や任務に背く行為など基本的な要件は背任と変わりません。
異なるのは一般社員ではなく、一定の権限を有する者が対象となっている点です。
対象者は、発起人、設立時取締役、取締役、会社参与、監査役、執行人、支配人など会社から権限を与えられ責任が大きい役員などに限られています。責任が大きい者が対象となっている分、刑罰も10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金、または併科と背任よりも重く定められています。
しかし、役員による行為のため背任よりも証拠が掴みにくいうえ、損害を与えても「会社を守るためだった」、「適切な手続きに則って行った」と主張された場合には、特別背任が立証できないケースもあります。
背任の時効

会社の財産に関わる業務をしている人にとって、背任は対岸の火事ではありません。自分はそんなことしないと思っていても、様々なしがらみや状況の変化によってどうなるかわからないのが人間です。例えば「辞めちゃえばバレないだろう」という軽い気持ちで背任行為に及んだ場合、当たり前ですが、会社を辞めたからといってなかったことにはなりません。
背任は5年、特別背任は7年
では、背任罪はいつまで遡ることができるのかというと、刑事事件としての公訴時効は5年、特別背任の場合、公訴時効は7年と定められています。刑罰、時効ともに特別背任のほうが重く設定されていることがわかります。
刑事としての時効が経過してしまった場合に関係してくるのが、民事の不法行為による損害賠償権でしょう。改正民法724条において「損害、加害者を知ったときから3年、不法行為時から20年間行使しないときに時効によって消滅する」と明記されています。
また、帳簿や事業に関する重要な書類は会社法432条にて10年間の保存、国税庁による「No.5930 帳簿書類の保存期間」では7年間の保存が義務づけられています。
書類内容によって保存期間の差はありますが、少なくとも背任や特別背任の公訴時効中は書類が保管されているため、そうした書類から過去の不正行為を見つけることもあり得ます。担当者が変わったときに、改めて書類をチェックしていたときに露呈するというのはよくあるケースでしょう。すでに辞めた人であっても5年以内ならば証拠が揃っていれば、罪に問うことが可能です。
背任と横領の違い

背任と類似している犯罪としては、横領があります。どういう違いがあるのかなどをしっかり把握しておくことが自身や会社の安全を守ることにつながります。
横領は3種類
横領とひとくちに言っても、実は3つに分類されています。
まずは横領についてです。刑法第252条にて「自己の占有する他人の物を横領した者は5年以下の懲役に処する」と定められており、公訴時効は5年で単純横領とも呼ばれています。例えば友達から預かったお金を使い込んだり、借りたものをフリマアプリで売ったときが考えられます。
次に業務上横領については、同第253条に「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は10年以下の懲役に処する」と定められ、公訴時効は7年です。ニュースで取り上げられる横領事件のほとんどはこの業務上横領だと考えられます。もっともわかりやすいのが会社のお金を着服したというケースです。
そして、遺失物等横領です。同第254条に「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は1年以下の懲役、または10万円以下の罰金、もしくは科料に処する」とあり、公訴時効は3年。落ちていた財布を自分の物として持ち帰る行為などが該当します。いわゆる猫ババと呼ばれる行為ですが、横領罪のひとつです。
背任、横領ともに他人に委託された者が本来の意図、任務に背いた行為をするという共通点がありますが、横領は「他人の物を自分の物のように扱う行為」であるのに対し、背任は「他人のために事務処理を行う者が、自分や第三者の利益、会社の損害を目的とした行為」と対象者が限定されています。どちらにも当てはまる行為が企業内で行われた場合、業務上横領のほうが刑罰が重いため、まずは横領が成立するかどうかを考慮されることが多いようです。
また、大きな違いとして、横領はすぐに既遂となり未遂罪がありませんが、背任は刑法第250条の未遂罪が適用されることが挙げられます。
まとめ

背任や横領は証拠をつかむのが難しいといわれています。
社内でこうした疑惑がある場合、証拠を掴む前に不正行為に気づいたことが露呈すれば、証拠隠滅されかねません。
背任は5年、特別背任は7年遡ることができるので、焦って問いただすのではなく探偵などの調査機関でじっくり調査をして証拠を得たうえで行動することが賢明でしょう。