背任行為と「故意」の関係とは?故意について詳しく解説

刑法に規定されている犯罪の中には、「故意の有無」が構成要件(犯罪が成立する要件)として求められるものがあります。
刑法における故意の定義と、背任行為における故意との考え方について解説します。
法律上の「故意」

刑法における「故意」は、刑事事件においては非常に重要な概念です。
また、刑法上の「故意」と「過失」の違いを知っておくと、理解も早まります。
故意とは
刑法での「故意」は、以下に規定されています。
(故意)
第三十八条
- 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
- 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
- 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
このように、「故意」とは、罪を犯す意思を指しています。
罪を犯す意思とは、どういう相手に、どのような行いをして、どのような結果が、因果関係のもと生じ
るかの事実認識を言います。
また、故意には「確定的故意」と「未必の故意」の2つの考え方があります。
自分の犯罪行為と結果の確実な因果関係を、認識している場合が「確定的故意」です。
自分の犯罪行為と結果の確実な因果関係を、認識しているが、結果を希望していないがやむを得ないとしている場合が「未必の故意」です。
また、「故意」と「過失」の違いで、刑の重さが大きく異なることがあります。
故意と過失の違い
刑法上の「故意」とは、犯罪事実の認識や認容と定義されています。
これは、犯罪を構成する自らの行為を認識し、それを認めることを指しています。
故意の対義語である「過失」は、不注意などによって生じた失敗や過ちを意味します。
過失とは、注意義務に違反する状態と言えます。
注意義務とは、結果の予見し可能性を回避すべき適切な処置をとらなかった、回避義務を怠ったことを指します。
背任行為と犯罪

背任罪は、財産上の事務的な処理を任される人が、自分や第三者の利益のため、もしくは委託人に損害を与える目的でその任務に背いた行為により、損害を与える犯罪です。
背任罪の成立には、結果として本人に財産上の損害が発生したこと、任務に背くことや損害を与える目
的が故意的であることが必要とされています。
背任罪の成立要件
背任罪は、未遂犯への処罰規定の適用もあります(刑法第250条)。
また、親族間での窃盗に関する特例(親族相盗例(しんぞくそうとうれい))の準用があり、親族間(配偶者、直系血族又は同居の親族)で行われた背任行為は、刑が免除されます(刑法第251条、第244条)。
背任罪が成立するためには、行為者が「他人のためにその財産上の事務を処理する者」とします。
財産上の事務とは、金銭や品物といった財産の管理のほか、財産についての権利(登記手続に関する協力義務など)も含まれます。
【任務違背行為】
「任務に背く行為」(任務違背行為・背任行為)については、諸説ありますが、判例・通説によると、
信任関係に背いた財産侵害、または事務処理者としての誠実さの期待に反する行為と解されています。
【図利加害目的】
自己若しくは第三者の利益を図る目的をもつこと、又は本人に損害を加える目的をもつ場合です。
財産上の事務処理では、本人の財産を損なう取引などを行う場合もあり、本罪で処罰すべき行為かを区別するために「目的」があることが要件とされています。
【財産上の損害】
財産上の損害の発生事実も必要です。
ここでいう「財産上の損害」とは、既存の財産が減少したという「積極的損害」のほかにも、将来取得しうる利益の減少という「消極的損害」にも及びます。
背任行為と法律
【刑法】
(背任)
第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(横領)
第二百五十二条 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
(業務上横領)
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
(遺失物等横領)
第二百五十四条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
【特別法】 会社法
(取締役等の特別背任罪)
第九百六十条 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
- 一 発起人
- 二 設立時取締役又は設立時監査役
- 三 取締役、会計参与、監査役又は執行役
- 四 民事保全法第五十六条 に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者
- 五 第三百四十六条第二項、第三百五十一条第二項又は第四百一条第三項(第四百三条第三項及び第四百二十条第三項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者
- 六 支配人
- 七 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
- 八 検査役
2 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は清算株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該清算株式会社に財産上の損害を加えたときも、前項と同様とする。
- 一 清算株式会社の清算人
- 二 民事保全法第五十六条 に規定する仮処分命令により選任された清算株式会社の清算人の職務を代行する者
- 三 第四百七十九条第四項において準用する第三百四十六条第二項又は第四百八十三条第六項において準用する第三百五十一条第二項の規定により選任された一時清算人又は代表清算人の職務を行うべき者
- 四 清算人代理
- 五 監督委員
- 六 調査委員
(代表社債権者等の特別背任罪)
第九百六十一条 代表社債権者又は決議執行者(第七百三十七条第二項に規定する決議執行者をいう。以下同じ。)が、自己若しくは第三者の利益を図り又は社債権者に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、社債権者に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
背任罪と故意の考え方
背任罪が成立するためには、行為の「認識」が重要です。
背任行為によって財産上の損害を発生させた者が、
- 自分が「他人のために事務を処理する者」である
- 任務違背行為を行っている
- その行為から財産上の損害が発生する
この3要素を認識、又は予見している場合に、背任罪の故意として認定されます。
しかし、任務違背行為を行っている認識がない場合は、故意は否定されます。
背任罪の成立には、「自己や第三者の利益を図る、又は本人に損害を加える目的」(図利加害目的)が必要といえます。
まとめ
背任罪を理解するためには、構成要件の理解が重要です。
その中でも、「故意」とは行為の「認識」であり、背任や損害行為を認識して行うことが、本罪成立の前提条件となります。