筆跡鑑定は刑事訴訟で証拠になる?実際の判例をもとに徹底解説!

筆跡鑑定と聞いて、刑事ドラマを連想する方は結構多いのではないでしょうか。ドラマで見る筆跡鑑定に実は憧れていた、という方も中にはいらっしゃるかもしれません。今回はそんな筆跡鑑定が、実際の刑事訴訟においてどれくらいの効力を持つのかを詳しくお伝えしていこうと思います。筆跡鑑定や刑事訴訟自体がどんなものなのか全く分からなくても、単語レベルで詳しく解説していますので安心してお読みください。この記事が少しでも皆様の参考になれば幸いです。
筆跡鑑定っていったい何なの?

人は何千回、何万回と文字を書くことで、そこに個性や癖が出てくるものです。筆跡鑑定とは、そんな一人ひとりの個性を分析する鑑定の一種と位置づけられています。ここでは、そんな筆跡鑑定の基本情報についてお伝えしていきたいと思います。
筆跡鑑定は筆跡鑑定人が行う!
まず、筆跡鑑定はやろうと思えば誰でもできるものではありません。丸みや角ばり等、ある程度の特徴なら普通の人でも見分けられるかもしれませんが、裁判で証拠として提出するには、筆跡鑑定人と呼ばれる専門家への依頼が必須です。筆跡鑑定人は依頼人の目的に合わせて鑑定を行い、訴訟の判断基準となる鑑定書を作成します。
筆跡はただ形を見るだけではない
筆跡鑑定は、ただ文字の形だけを見て判断しているわけではありません。書くうちに、文字にある程度の傾向が生まれてくることはもちろん事実ですが、毎回文字の形が全く同じになる人は稀です。筆跡鑑定は文字一つひとつの形の分析というより、文章全体の書字行動で本人かどうかを判断します。現在は鑑定にコンピューター解析を用いる場合も増えてきており、やり方はどんどん科学的になってきていると言えます。
自分で依頼する場合は専門機関へ!
もし筆跡鑑定を自分で依頼してみたいと考える方がおられましたら、「日本筆跡鑑定協会」や「法科学鑑定研究所」などの専門機関に依頼することで、簡単に鑑定してもらうことが可能です。しかし、筆跡鑑定人の中にはいい加減な知識で鑑定を行う「偽物」も少なからず存在するので、専門機関は慎重に選ぶようにしましょう。裁判所などから直接依頼を承った実績のあるところに依頼すると、安心かもしれません。
筆跡鑑定は刑事訴訟で有効なのか

刑事訴訟で筆跡鑑定を証拠とする場合、どれくらいの証拠能力があるのでしょうか。刑事訴訟の特徴なども含めて解説していきます。
刑事訴訟の目的は?
刑事訴訟は、起訴された被告人が実際に犯罪行為を行なったのかどうか、行なったとしたらどの程度の刑罰を課すべきなのかを判断する目的で行われます。刑事訴訟は民事訴訟と違い、検察官しか訴訟を起こすことができず、一部の司法取引を除いて和解による解決はできません。また、刑事訴訟は原則「疑わしきは罰せず」の理念で行われるので、提出資料には強い証拠能力が求められます。
筆跡鑑定が用いられるのは民事訴訟がほとんど!
実をいうと、筆跡鑑定は民事訴訟に用いられることがほとんどです。民事訴訟は、「事実の認定」を重視した裁判なので、筆跡鑑定が勝敗のポイントになるケースも多いとされています。その点、刑事訴訟は100%疑いようのないと言えるほどの証拠能力がないと裁判の決定打にはならないため、筆跡鑑定は重要視されにくい傾向にあると言えます。
筆跡鑑定の信用性
繰り返しになりますが、刑事訴訟で筆跡鑑定はどうしても証拠として重視されにくいと言われています。いくらコンピューターなどを取り入れているとはいえ、最終的には筆跡鑑定人の判断に基づいて結論が下されるので、他の科学的な証拠よりも能力を軽視されてしまうのです。しかし、証拠として全く意味のないものであったなら、筆跡鑑定が今日まで生き残ることはなかったでしょう。脅迫状の鑑定など、過去に筆跡鑑定が重要な切り札になった刑事訴訟はしっかり存在していますので、筆跡鑑定が全くの無意味だ、という主張は必ずしも真実ではありません。
刑事訴訟で筆跡鑑定が決め手となった事例を紹介!

実際にあった刑事訴訟の中で、伝統的筆跡鑑定の証拠能力に一定の見解が述べられた判例があります。ここからは、その判例がどのような事案で、結果的にどんな判決が下されたのかについて詳しくお伝えしていきます。
訴訟内容
裁判所の公式サイトで閲覧することができる、最高裁判所判例集の事件番号「昭和40(あ)238」(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=58926)をご紹介していきたいと思います。
被告人は脅迫容疑をかけられて起訴されました。筆跡鑑定人は、被害者のもとに届いた脅迫ハガキが被告人の筆跡と一致するという鑑定結果を示したのに対し、被告人側は伝統的筆跡鑑定による鑑定には証拠能力が認められない、という主張を展開しました。この裁判で主に争われたのは、筆跡鑑定の証拠能力です。裁判所が、筆跡鑑定にどのような立場を示しているのかを明らかにする判例となりました。
裁判所の見解
本判決の裁判要旨には、以下のような記載がなされています。
いわゆる伝統的筆跡鑑定方法は、多分に鑑定人の経験と感に頼るところがあり、ことの性質上、その証明力には自ら限界があるとしても、そのことから直ちに、この鑑定方法が非科学的で、不合理であるということはできないのであって、筆跡鑑定におけるこれまでの経験の集積と、その経験によって裏付けられた判断は、鑑定人の単なる主観にすぎないもの、といえないことはもちろんである。したがって、事実審裁判所の自由心証によって、これを罪証に供すると否とは、その専権に属することがらであるといわなければならない。
筆跡鑑定が鑑定人の経験や勘に頼るところはあるものの、そのことが筆跡鑑定の科学性や合理性を根本から否定するものではない、という見解を最高裁判所が示したことで、筆跡鑑定は証拠として一定の信用を得ることができるようになりました。これは、筆跡鑑定業界の中でも大変大きな出来事だったと言えるでしょう。筆跡鑑定が裁判所に認められた瞬間でした。
まとめ

ここまで、刑事訴訟における筆跡鑑定の有効性についてお話ししてきましたが、いかがだったでしょうか。普段の生活の中で、筆跡鑑定や刑事訴訟と言った言葉に触れることはあまりないと思いますが、知っていると思わぬところで有効活用できるかもしれません。この記事が、皆様のお役に立てることを願っております。