盗聴が犯罪になる場合とその罪とは?

盗聴とは「会話している双方の同意を得ずに、意図的に盗み聞く行為」です。
しかし、この盗聴自体、実は犯罪行為ではないのです。何故と思われる方が大多数でしょう。何せ「盗」という漢字が使用されているのですから、「窃盗罪」じゃないかと思われるのが普通の感覚でしょう。
しかし、窃盗罪とは「他人の財物」を窃取(盗む)する行為だと刑法235条では定められており、この「他人の財物」と言うものには「情報」は該当しないと考えられています。情報社会と言う言葉が当たり前になって久しい時代なので、一般的な感覚としては「情報」=「財物」ではありますが、法律とは必ずしも時代にマッチしていかないのが、悩ましい種ではありますね。
また、窃盗罪とは、詐欺罪、強盗罪とは違って、物に対するものではなく、利益を搾取する事を処罰対象としている為、背任的な行為や利得にかかわる搾取に対する処罰規定がなされていない為、「情報を盗む行為」には窃盗罪は成立しないと言うことになります。
しかし、過去の事例を見ると「大学入試問題を盗んだ事案が窃盗罪として起訴された」と言う有名な刑事裁判があります。これまでの刑法上の解釈としてはおかしい起訴内容ではありますが、検察官は「問題用紙の窃盗罪」として起訴、裁判所はその問題用紙を「財物」とみなし、起訴を受けた形でした。
何だか、当たり前の事なのに、回りくどく解釈をつけて起訴まで持っていったと言う印象が拭えませんね。
このやり方を見てもわかる通り、実務的には、問題用紙に書かれた情報自体を「財物」と扱っているわけではないことがわかりますね。
明らかに罪に問われてもおかしくないこの様な事案でさえ、解釈に小細工しなければ起訴できないのですから、他人の会話という「情報」を聞くこと自体に刑罰を該当させる事ができないのが現実で、「盗聴そのものを犯罪とする法律がない」と一般的に言われる所以となります。
ただし、盗聴(人の会話を盗み聞く)と言う行為に処罰がないからと、やられた人はあきらめてはいけません。勿論、安心して盗聴行為をしてはいけませんよ。場合によっては盗聴行為が犯罪となるケースがありますので。
1、盗聴が犯罪にならないケース
前の項でも説明した通り、盗聴(人の話を盗み聞く、録音する)そのものは犯罪として裁かれない為、大きく分けて次の2パターンは犯罪になりません。
・録音機材等を使い、相手方や他人の会話や通話を録音する行為
・何等かの機材を使い、他人の会話内容を盗み聞く行為
例えば、大事な話し合いの中で、録音機を用意して会話を録音しておく事は法律的に処罰される事はないし、集音マイクの様なもので、数メール先の人達の会話を聞いたとしても処罰される事はないという事になります。
※次の項の犯罪になるケースを参照してください。録音したり、聞いたりが犯罪にならなくともシチュエーションによっては別の罪に問われますので。
2、盗聴が犯罪になるケース
「盗聴」を処罰する法律はなくとも、盗聴する過程において問題となる行為があった場合は、その罪で処罰されます。
・盗聴器を他人の家に侵入して仕掛け、盗聴さした場合
・盗聴した内容で、他人への恐喝、金品要求をした場合
・盗聴した内容を不特定多数の他人に、個人が特定できる情報と共に流布した場合
あくまで盗聴行為についての処罰はないものの、住居侵入や恐喝、名誉棄損などの罪に問われるケースとなります。
盗聴器を仕掛けた場合の犯罪になるケース
他人の家やその敷地内、ビルやマンション等の建造物等に立ちいる行為
勿論ではありますが、住居やビル、マンションの所有者や居住者は、第三者が盗聴器を仕掛ける為に、その敷地内に立ち入ることに同意はしていません。その為、「住居侵入罪」又は「建造物侵入罪」が成立する事となり、住居侵入罪又は建造物侵入罪(刑法第130条)の罰則として3年以下の懲役又は10万円以下の罰金が課せられる事となります。
他人の家具・家電を改造した
盗聴器を仕掛ける為、他人の居宅にある家具や家電等を改造し、盗聴器をつけた場合、所有者の同意なく、物理的に家具や家電を損壊した訳ですから、器物損壊罪(刑法第261条)が成立し、罰則として3年以下の懲役又は30万円以下の罰金もしくは科料される事となります。
電話回線上に盗聴器を仕掛け、通話内容を盗聴する
電話回線には「通信の秘密」と言う特性が適用され、憲法上(憲法21条2項)も保障されている基本的人権と言う観点から処罰事項が生まれます。
「通信の秘密」とは具体的にいうと、電気通信事業者が取扱中に通話の内容などを聞き洩らしてはいけないと言うもので、電気通信事業法第4条にて規制されています。これは電話事業者だけでなく、一般人であったとしても、電話回線を盗聴する行為に及んだ場合は適用されるものとなり、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます。
また、有線電気通信の傍受などに関しては、有線電気通信法第9条及び第14条により、また、無線通信における通信の傍受は電波法第59条及び第109条により、それぞれ罰則が規定されています。(ただ、無線通信の場合は、その特性上、盗聴し、その内容を他人に漏らすなどで処罰対象になります)
電話線を切断した
盗聴目的で電話線を遮断し、繋ぎ合わせると言う行為については、有線電気通信法第13条1項違反になります。たとえ、同法違反が成立しないとしても、器物損壊罪(刑法第261条)が成立する事となり、有線電気通信法第13条1項違反は5年以下の懲役又は100万円以下の罰金を科せられる事となります。

盗聴内容を利用した場合、犯罪になるケース
脅迫する行為
盗聴した内容を元に、他人を脅迫する行為は脅迫罪(刑法第222条)となります。加えて、金品等を要求し、取得した場合は恐喝罪(同法第249条)としても成立する為、2重の刑罰が生じます。
(脅迫罪)罰則:2年以下の懲役 又は30万円以下の罰金
(恐喝罪)罰則:10年以下の懲役
誹謗中傷する行為
盗聴した内容を不特定多数に、個人が特定できる情報をつけて流布した場合、名誉棄損罪(刑法第230条)や侮辱罪(刑法第231条)が成立する場合があります。ただし、内容如何によるところもある為、多くは名誉棄損罪にて立件されるケースが多い様です。
(名誉棄損罪)罰則:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
(侮辱罪) 罰則:拘留又は科料
ストーカー行為
盗聴内容を利用してストーカー行為に及んだ場合、ストーカー規制法により処罰の対象となり、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。
盗聴内容を他人に漏らす行為
特に事業者の場合、無線局の取扱中、無線通信の秘密を漏らした場合などは電波法第59条及び第109条1項違反になり、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金になる場合があります。

盗聴を裁く法律はなくとも、盗聴に関わる刑事罰は多数存在しますから、“捕まらないから”と高をくくって、面白半分に盗聴などは行ってはいけません。また、“盗聴された”場合でもシチュエーションさえ整えば、仕掛けた相手を訴追できる可能性もありますので、ただただ泣き寝入りする事なく、法律家や専門機関(総合探偵社)に相談する事をお勧めします。